KPIツリーとは、KGI(最終的に達成したい成果を測る指標)を頂点に置き、目標を構成する数値や、達成に関わる指標を枝分かれさせて、そのつながりを整理した図のことです。
完成した図を見ると、自分でも作れそうに感じるものです。ただ、実際に手を動かしてみると、次のようなところで手が止まりがちです。
「どこまで細かく分ければよいのか」
「この掛け算は、本当に計算が合っているのか」
「図はできたけれど、結局どの数値を改善すればよいのか」
このように迷いながらKPIツリーを作っている、Web担当者や営業・マーケティング担当の方も多いのではないでしょうか。
本記事では、一つの営業の例を使って、KPIツリーを作る手順を最初から最後まで解説します。あわせて、ECとカスタマーサポートの例、自分の図を確認するための点検表、記入済みの設計シートとコピー用の空欄版もお伝えできたらと思います。
なお、本記事に登場する数値は、すべて説明用の仮例です。業界平均や実際の支援成果ではない点は、ご了承ください。
KPIツリーとは?KGIとKPIのつながりを整理する図
KPIツリーという言葉は知っていても、KGIやKPIとの違いをうまく説明できない方もいると思います。KPIツリーは、用語の定義から入るより、小さな図を一つ見たほうが理解しやすいものです。
図で見るKPIツリーの基本構造と読み方
まずは、いちばん小さなKPIツリーを見てください。営業の「新規受注金額」を、二つの数値に分けた図です。

KPIツリーでは、上に成果を置き、その下に成果を構成する数値を並べます。図1では、上にある新規受注金額300万円を、受注件数6件と平均受注単価50万円/件に分けています。
読み方はシンプルで、下の二つの数値を掛けると上の数値になります。
受注件数6件×平均受注単価50万円/件=新規受注金額300万円
この関係が成り立っていると、新規受注金額が変わったときに、件数が変わったのか、1件あたりの金額が変わったのかを分けて確認できます。なお、図1の数値は、計画の元にする「基準月」1か月分の実績という設定です。
図1で親と子をつないでいる実線は、計算で成り立つ関係を表しています。計算では表せない関係を描く点線も使いますが、これに関しては、後述します。
観光庁の手引書でも、KPIツリーは、最終目標の達成に必要な要素や指標を階層的に整理した図解として説明されています。(参照:スノーリゾート地域の経済波及効果分析手引書 Ver.1|観光庁)
KGI・KPI・KPIツリーの違い
図1をもとに、三つの用語を整理しておきます。
| 用語 | 意味 | 本記事での例 |
|---|---|---|
| KGI | 対象業務の最終的な成果を測る指標 | 新規受注金額 |
| KPI | KGIに向かう進捗や重要な状態を測る指標のうち、重点的に管理すると決めたもの | 下段の指標などから選ぶ(本記事の例では受注率。ステップ5で解説) |
| KPIツリー | KGIとKPIのつながりを整理した図 | 図1全体 |
KGIの下に並んだ数値が、すべて自動的にKPIになるわけではありません。どの指標を重点的に管理するかは、作り方のステップ5で解説します。
もう一つ区別しておきたいのが、指標と目標値です。「新規受注金額」は何を測るかを表す指標で、「計画対象月に400万円」は、その指標で目指す目標値です。図の箱には指標の名前を書き、目標値は別の欄で管理すると、目標と実績が混ざりにくくなります。
また、同じ指標でも、対象とする範囲によって役割が変わります。例えば「商談数」は、受注金額をKGIとする事業全体で重点的に管理すると決めれば、KPIの一つになります。一方、商談の創出を担当するチームにとっては、商談数そのものが最終成果、つまりKGIになることもあります。指標の名前だけで、KGIかKPIかが決まるわけではありません。
KPIツリーの解説では、KSF(重要成功要因)という言葉が出てくることもあります。KSFは、目標の達成に効く要因や方針のことで、KGIとKPIの間に置いて整理する例もあります。ただ、すべてのKPIツリーで、KSFの階層を独立して作る必要はありません。
ロジックツリーとの違い
ロジックツリーは、課題や原因、解決の手段などを枝分かれさせて考えるための、広い考え方です。KPIツリーは、その考え方を使いながら、目標と指標の関係を整理することに用途を絞ったもので、ロジックツリーの一種として説明されることもあります。(参照:KPIツリーはどう作る?作り方の手順とKGI・KPIとの違い、具体例・活用ポイントを解説|マネーフォワード クラウド)
違いが分かりやすいのは、図1と同じ「新規受注金額」を扱う場合です。
「なぜ新規受注金額が減ったのか」を考えるときは、「提案内容が顧客の課題に合っていなかった」「競合に価格で負けた」「担当者が抱える案件が多すぎた」のように、原因の仮説を並べていきます。
一方、「新規受注金額=受注件数×平均受注単価」は、成果がどの数値で構成されているかを分けたものです。本記事の営業例では、この構成の分解を骨格にします。
原因の仮説を並べることにも、もちろん意味はあります。ただ、構成の分解と同じ図の中に区別なく混ぜてしまうと、どこまでが計算で確かめられて、どこからが推測なのかが分からなくなります。営業例のように成果を数値で分けられる場合は、まず構成の分解で骨格を作り、原因や改善の仮説は線の種類を変えて描き分けると、読みやすい図になるでしょう。
まずは、ご自分の担当業務の成果を、図1のように二つの数値へ分けられるか、考えてみていただけたらと思います。計算で分けるのが難しい関係の扱い方は、後半のカスタマーサポートの例で解説します。
KPIツリーを作るメリットと、図だけでは分からないこと
KPIツリーを作れば、成果が出ない原因まで見えてくると期待している方もいるかもしれません。役に立つ場面は確かにありますが、図だけでは決められないこともあるため、両方をあわせて押さえておくことが大切です。
未達が起きている箇所と、確認する順番が見える
最終成果の数値だけを見ていると、目標に届かなかったときに「足りなかった」以上のことが分かりません。KPIツリーで成果を件数と単価に分け、さらにその下の指標まで分けておくと、目標や前月と比べて、どの枝に差が出ているかを確認することが可能です。
ただし、差が見えるのは、ツリーに目標と実績のデータを入れたときです。図の形を作っただけでは、どこに差があるかは分かりません。
また、差が出ている箇所が分かったとしても、それで原因が分かったわけではありません。例えば受注率が下がっていたとしても、それだけで「営業トークが悪い」と決めるのは少々乱暴です。案件の構成が変わったのかもしれませんし、失注を記録するタイミングが変わっただけかもしれません。
未達の指標が見えた段階で分かるのは、「次に詳しく調べる箇所」です。調べる順番が決まるだけでも、思いついた施策を手当たり次第に試すよりは進めやすくなります。
チームの目標と役割を共有しやすくなる
兼務で数値を見ている担当者は、上司や他部門から「その数字を見て、何が分かるの?」と聞かれることがあると思います。KPIツリーがあれば、「この数値は新規受注金額のこの部分を構成しているので、毎月確認しています」と、図を使って説明することが可能です。
さらに、管理表に「誰が記録し、誰が確認するか」まで書いておけば、数値を追う役割の分担も共有しやすくなります。この管理表は、本記事では設計シートと呼び、作り方とExcelの章で解説します。
一方で、ツリーの一部だけを見て動くと、別の部分が悪くなることもあります。例えば、商談の件数だけを目標にすると、受注の見込みが低い商談まで増え、1件ごとの提案準備にかけられる時間が減って、受注率が下がるかもしれません。一つの枝の数値を伸ばしたときは、親の成果がどう動いたかもあわせて確認しておきましょう。
計算で成り立つ関係と、検証が必要な仮説がある
KPIツリーの線には、性質の異なる二つの関係が含まれます。
一つは、計算で成り立つ関係です。「受注件数×平均受注単価=新規受注金額」は、指標の定義・対象・期間がそろっていれば、集計上の等式として成り立ちます。
もう一つは、検証が必要な仮説です。例えば「提案前に顧客の要件確認を増やせば、受注率が上がる」という関係は、図に線を描いても、それで因果関係が証明されるわけではありません。実際に試して、記録を追いながら確かめる必要があります。
医療の質改善の分野で使われるDriver Diagram(ドライバー・ダイアグラム)は、目標の達成に何が寄与するかについての、チームの考えを図にしたものと説明されています。KPIツリーとは別の手法ですが、図に描いた関係を「試して確かめる対象」として扱う考え方は参考になります。(参照:Driver Diagram|Institute for Healthcare Improvement)
また、すべてのKPIツリーが掛け算でできているわけではありません。区分ごとの売上を足し合わせる場合もあれば、顧客満足度と、その改善に関わりそうな指標との関係を、仮説として整理する場合もあります。前述の観光庁の手引書の設定例でも、来訪者満足度やリピート訪問率がツリーの中に配置されています。根拠がないまま、指標どうしの関係を掛け算の等式にする必要はありません。(参照:スノーリゾート地域の経済波及効果分析手引書 Ver.1|観光庁)
KPIツリーには苦手なこともあります。複数の指標が影響し合う関係、景気や競合の動きといった外部環境、施策から成果が出るまでの時間差は、一枚の図では表しきれません。KPIツリーは、成果の構造を整理して確認する箇所を絞るために使い、将来の予測や原因の特定まで任せられる道具とは考えないほうがよいでしょう。
こうした得意・不得意を頭に置いたうえで、作り方に進んでください。
KPIツリーの作り方|営業の仮例で進める5ステップ
自分の目標でKPIツリーを作ろうとすると、何から手をつければよいか迷うものです。ここでは、図1と同じ営業の仮例を使い、設計シートに記入しながら進められる5つのステップで解説します。
手順を読みながら、記入済みの見本や空欄の設計シートを開いておくと進めやすくなります。
この仮例では、次の二つの月を使います。
- 基準月:計画の元にする1か月
- 計画対象月:基準月の翌月
作成の段階では、基準月の実績と、計画対象月の目標・試算を使います。計画対象月が終わった後の実績は、「KPIツリーを改善につなげる使い方」の章で比べます。どの月の数値も、説明用の架空の数値です。
1. KGIの対象・期間・目標値を決める
最初に、ツリーの頂点に置くKGIを決めます。この仮例では、「計画対象月の新規受注金額400万円」をKGIの目標とします。
ここで大切なのは、何を数えるかを先に決めておくことです。この仮例の新規受注金額は、継続契約や更新を除いた、新規案件の契約金額の合計とします。会計上の売上計上額とは別のものとして扱います。
現状を確認するため、同じ条件で集計した基準月の実績を見ると、新規受注金額は300万円でした。
設計シートには、最初の指標欄に「新規受注金額/KGI」、目標の欄に「計画対象月:目標400万円」と記入します。税込・税抜の扱いや、どの日を受注日とするかといった細かな条件は、設計シートの「集計・運用上の注意」に残しておきましょう。
なお、KPIツリーが目標値を決めてくれるわけではありません。400万円という目標が妥当かどうかは、過去の実績や体制をふまえて、関係者と別に合意しておく必要があります。
2. KGIを構成する数値へ一段ずつ分ける
次に、KGIを構成する数値に分けていきます。図1の受注件数を、さらに一段展開したのが図2です。

結果確定商談件数は、その月に受注・失注が確定した新規商談の件数です。受注率は、その中の受注件数÷結果確定商談件数で算出し、まだ結果が出ていない未確定の案件は含めません。
図2で使っている式は、次の二つです。
- 受注件数=結果確定商談件数×受注率(30件×20%=6件)
- 新規受注金額=受注件数×平均受注単価(6件×50万円/件=300万円)
分母の定義をここまで細かく決めるのは、「商談数」という言葉が指すものが一つではないからです。当月に新しく発生した商談と、当月に結果が確定した商談は、別の案件の集まりになることがあります。例えば、当月に結果が確定した商談の中には、2か月前に始まった案件も含まれているかもしれません。
図2は、基準月にすでに起きた実績を、式で整理したものです。まだ結果が出ていない案件から来月の受注件数を予測するのとは、別の作業として考えておきましょう。
分け方は一つではありません。商品別や顧客区分別に分けて、足し算でつなぐことも可能です。その場合は、同じ実績が二つの区分に重複して入っていないか、どの区分にも入らない実績が残っていないかを確認しておきます。
3. 改善に使える指標と施策の候補をつなぐ
KPIツリーには、どこまで分ければ完成という決まりはありません。分ける深さは、「この数値が悪くなったら、誰が何を調べ、何を変えられるか」で判断すると決めやすくなります。すべての枝を、限界まで細かくする必要はありません。
この仮例では、受注率の下に、改善に使えそうな指標と施策の案を点線でつないでみます。

本記事では、実線は計算で成り立つ関係、点線は検証する改善仮説として描き分けています。この使い分けは本記事の中での表現で、一般的な規格ではありません。
受注率を「この例の重点KPI」としている理由は、ステップ5で解説します。図の「提案前の要件確認実施率」は、この仮例のために定義した候補の指標です。
- 分母:集計月に初回提案を行った新規案件数
- 分子:そのうち、初回提案の前に必須確認項目をすべて記録できた案件数
分子・分母は、案件IDで重複を除いたうえで件数で数えます。必須確認項目には、例えば顧客の課題や提案の条件などを、記録を始める前に決めておきます。一般的な標準の定義ではないので、自社で使う場合は、項目を自社の業務に合わせて決めていただけたらと思います。
要件確認の共通化は、失注理由や提案の記録を調べた結果、提案条件の聞き漏れが疑われた場合に試す改善候補です。受注率が低いという理由だけで、自動的に選ぶ施策ではありません。
枝を描くときは、自社で直接決められる活動と、働きかけはできても確実には動かせない成果の指標を分けて考えます。要件確認の共通化は自分たちで決めて実行できますが、受注率は顧客の判断にも左右されます。景気や競合の動きといった外部の条件は、ツリーには混ぜず、別のメモに残しておきましょう。
まだ数値を取れていない枝には、「計測予定」「代替指標」「保留」のいずれかを書いておきます。数値がないからといって、都合のよい数字を仮に置くのは避けてください。
4. 現状値を入れ、目標から必要な水準を逆算する
図2の基準月実績を一つの式にまとめると、次のようになります。
結果確定商談件数30件×受注率20%×平均受注単価50万円/件=新規受注金額300万円
ここから、計画対象月の目標400万円に必要な水準を逆算します。まずは、平均受注単価を基準月と同じ50万円/件と置いて、必要な受注件数を求めます。
目標400万円÷平均受注単価50万円/件=受注8件
このときの50万円/件は「試算条件」、8件は「その条件での必要水準」です。どちらも目標そのものではないため、設計シートにはラベルを付けて書き分けておきます。
続けて、受注率も基準月と同じ20%と仮定すると、必要な結果確定商談件数が求まります。
受注8件÷受注率20%=結果確定商談件数40件
ただし、この40件は、ほかの条件が変わらなければという前提での必要水準です。40件という件数を増やすこと自体を、行動目標にはしないでください。結果確定商談件数は、見込みの薄い案件を早めに失注として確定させるだけでも増えてしまいます。
実際に確認したいのは、計画対象月に受注8件を見込めるかどうかです。そのためには、まだ結果が出ていない未確定案件の件数や進み具合、受注までにかかる営業期間、担当者の対応余力を別に確認して判断します。
また、新規有効商談件数のように、成果より前の段階で状況を確かめる指標を追う場合は、同じ案件の集まりがどう進んだかと、結果が出るまでの時間差を別に管理しておきましょう。当月に発生した商談の件数を、そのまま当月の受注件数の式へつなげることはできません。
逆算の方法は一つではありません。例えば、結果確定商談件数を基準月と同じ30件、平均受注単価を50万円/件と仮定するなら、必要な受注率は次のようになります。
受注8件÷結果確定商談件数30件=約26.7%
約26.7%は、0.2666…という計算値を表示上丸めた値です。ただ、率や単価は、こちらの都合で自由に上げられるものではありません。過去の実績や担当者の稼働、営業期間をもとに、いくつかの組み合わせを並べて比べることが大切です。
設計シートでは、目標400万円、条件付きの必要水準である8件・40件、試算条件である20%・50万円/件を、それぞれ区別して記入します。なお、同じ試算条件で目標以上を満たす最小件数を求める場合、必要件数が小数になったら整数に切り上げます。例えば計算結果が7.2件なら、7件では目標に届かないため8件とします。一方、率は丸める前の値で計算し、約26.7%のような表示上の丸めとは区別しておきましょう。これらの数値は、使い方の章の表1にもまとめています。
5. 計測方法・担当者・確認頻度を決める
最後に、各指標をどこから取り、誰が記録し、誰がいつ確認するかを決めます。設計シートの「取得先・記録担当・確認担当・頻度」と「次に確認すること」まで記入できたら、ひとまず設計の形が整います。
CRM(顧客管理システム)を導入していなくても、問題はありません。例えば、案件ごとに受注日・失注日・契約金額を記録した案件一覧をスプレッドシートで作っておけば、そこから受注件数や受注率を集計することが可能です。
まだ計測していない要件確認実施率は、記録を始めるところから進めます。案件ID、初回提案日、必須項目ごとの記録内容と完了日を残していきます。
最初の確認では、効果の有無を判定しようとせず、次の点を見ておきましょう。
- 分子・分母の件数
- 記録の漏れ
- 確認を実施できなかった理由
- 記録にかかる負担
その結果から、定義を修正するか、目標値を設定するか、記録を続けるか保留にするかを決めます。根拠のないまま「実施率80%」のような目標を先に置く必要はありません。
ツリーに並んだ指標のうち、どれを重点的に管理するKPIにするかは、次の四つの観点で選ぶと決めやすくなります。
- KGIとの関係がある
- 継続して測れる
- 自分たちが改善に関与できる
- 数値が変わったときに取る行動が決まっている
この例では、受注率を重点的に確認するKPIとします。受注率は、受注件数を通じてKGIの新規受注金額につながっており、案件台帳から継続して測れます。下がったときには失注理由や提案内容を調べ、提案の見直しにつなげるという、変化したときの行動も決めやすい指標です。ただし、受注率は顧客の判断にも左右されるため、担当者が直接動かせる数値ではありません。また、どの業務でも受注率を重点KPIにすべきという意味でもありません。
結果確定商談件数や平均受注単価は、受注率と受注件数の変化を読み解くために、あわせて確認する指標です。要件確認実施率は、記録を始めてから採否を判断する候補として扱います。
選んだ枝には印を付け、ほかの指標は、原因を調べるときに参照する参考・診断用の指標として分けておきます。図に描いた指標をすべて毎週管理する必要はありません。
重点的に管理する指標の数や、ツリーの階層数に、どの組織にも共通する正解はありません。少人数で運用する場合は、集計にかかる手間も含めて、続けられるかどうかを確認しておくとよいでしょう。
5つのステップで図と設計シートができたら、次の章の点検に進んでください。
作成したKPIツリーを点検するチェックポイント
図ができあがると、それで完成したように感じるものです。ただ、計算の前提や指標の定義にずれがあると、どれだけ丁寧に図を描いても、判断を誤る原因になります。
数式・単位・期間・分母が合っているか
単位の点検というと、「すべての指標の単位をそろえる」ことだと思われがちです。実際に確認したいのは、式の結果の単位が、親の指標の単位と一致しているかどうかです。
- 掛け算:件×円/件=円のように、計算した結果が親の単位になっているか
- 足し算:件+件、円+円のように、同じ単位同士を足しているか
例えば受注件数(件)と平均受注単価(円/件)は単位が違いますが、掛けると親の新規受注金額(円)になるため、問題ありません。
あわせて、次のような混在がないかも確認しておきます。
- 月次の数値と年次の数値
- 税込の金額と税抜の金額
- 商談を行った回数と、商談の案件数
- 異なる顧客の集まり(新規と既存など)
受注率の分母や、平均受注単価の対象となる案件も定義しておきましょう。率を計算するときに分母が0件になった場合は、率を「算出不可」とし、0%とは扱いません。同じように、受注が0件の月は平均受注単価を算出しません。必要件数を切り上げるのは、目標を満たす最小件数を求める試算の場合です(ステップ4参照)。実績の件数を切り上げたり、率の値そのものを丸めて計算に使ったりはしません。切り上げの有無や、未確定の案件をどう扱うかといった処理は、設計シートの「集計・運用上の注意」に残しておくと、後から見直すときに迷わずに済みます。
同じ実績の二重計上や、要素の抜けがないか
足し算で区分を分けるときに起こりやすいのが、同じ実績を二度数えてしまうことです。
例えば、「新規顧客の売上+関東エリアの売上+ECの売上」のように異なる切り口を同じ足し算の枝に並べると、関東の新規顧客がECで購入した売上は、三つの区分すべてに入ってしまいます。足し算でつなぐときは、新規/既存、商品別、地域別など、一つの分類の軸で、同じ実績が重複しないように分けます。
一方で、共通の施策や指標が複数の枝に関わること自体は、問題ありません。例えば、要件確認の共通化が複数の商品の受注率に関わる場合は、それぞれの枝に「再掲」と書いて参照を示します。合計の計算に二度加えたり、どちらの担当者が責任を持つのかを曖昧にしたりしないように注意しましょう。
分けきれない小さな項目は、「その他」として残し、何を含めたかを定義しておきます。枝の数を減らすために、全体の一部を消してしまうと、合計が合わなくなります。
測定・改善でき、判断に使える指標になっているか
「営業力を上げる」のような目標は、そのままでは測れません。「提案前の要件確認実施率」のように測れる形の候補にしても、それが本当に受注につながるかは、別に検証する必要があります。
また、ある指標を改善したことで、粗利・顧客満足・担当者の対応負荷など、ほかの大切なものが悪化していないかも見ておきます。例えば受注率を上げるために値引きを増やせば、受注件数は増えても粗利は下がるかもしれません。すべてを同じ式へ詰め込む必要はありませんが、あわせて見る指標として設計シートに書いておくと、見落としにくくなります。
ここまでの内容を、自分の図に当てはめて確認できるようにまとめたのが、次の点検表です。
表2 KPIツリーの点検表
| 確認項目 | 問題のある例 | 直し方 |
|---|---|---|
| 数式と単位 | 新規受注金額=商談数+単価 | 新規受注金額=受注件数×平均受注単価、または結果確定商談件数×受注率×平均受注単価と定義し、実績で検算する |
| 分母・対象 | 当月の受注件数÷当月に新しく発生した商談数を、同じ案件群の率として扱う | 案件群と結果が確定した時点を合わせ、将来の予測は別に扱う |
| 重複 | 新規売上+関東売上+EC売上 | 一つの分類の軸で、同じ実績が重複しないように分ける |
| 仮説 | 満足度=研修受講率×応答時間 | 指標候補の関連として点線で描き、別に検証する |
| 実行可能性 | データの取得元も担当者もいないKPI | 取得方法を決めるか、代替指標・保留にする |
| 意思決定 | 数字を増やすことだけが目的になっている | 数値が変化したときに、何を調べ、何を変えるかを書く |
点検表を上から一つずつ、ご自分の図と照らし合わせてみてください。
業務別のKPIツリー例|ECとカスタマーサポート
営業以外の業務になると、どう分ければよいのか想像しにくいかもしれません。ここでは、足し算で区分する例としてEC、計算式では表せない関係を扱う例としてカスタマーサポートを取り上げます。
ECの売上を分ける例
ECの売上は、「注文数×平均注文単価」に分けることができます。さらに注文数を、初回の注文と2回目以降の注文に分けたのが図3です。

図3の数値は、説明用の仮例です。初回注文100件と2回目以降の注文100件を足した200件に、平均注文単価5,000円/件を掛けると、売上100万円になります。
この分け方で大切なのは、人ではなく注文を数えることです。同じ顧客でも、最初の注文は「初回」、次の注文からは「2回目以降」と、注文ごとに区分を決めておけば、同じ注文が両方に入ることはありません。
また、売上の定義と集計期間もそろえておきます。キャンセルや返品をどう差し引くか、税や送料を含めるかによって、売上と平均注文単価の値は変わります。
このように同じ軸で注文を分けておけば、重複のない集計にできます。
顧客満足度を高めるための指標を整理する例
この例では、カスタマーサポートの「顧客満足度」と、その改善に関わりそうな指標の関係を整理します。一次解決率や初回応答時間から満足度を計算できるわけではないため、検証する仮説としてつなぎます。

図4では、一次解決率(最初の問い合わせ対応で解決できた割合)や初回応答時間を、「顧客満足度に関わる候補」として点線で結んでいます。「満足度=一次解決率×応答時間」のような式にはしません。
顧客満足度そのものは、例えば回答数に占める「満足」の回答の割合のように集計できます。その場合も、誰に調査するのか、何を質問するのか、何段階で答えてもらうのか、どう集計するのかを先に決めておきます。また、回答した人と回答しなかった人とで、評価が異なることもあります。調査の数値だけで、全顧客の評価だと決めつけないように気をつけましょう。
指標どうしの関係にも注意が必要です。初回応答時間を短くしようとして、確認が不十分なまま回答すると、解決の質が下がってしまうかもしれません。候補の指標が改善したときは、実績の数値と顧客の声の両方を確かめ、仮説そのものを見直していきましょう。
ご自分の業務に近い例をもとに、足し算で分けられる部分と、仮説としてつなぐ部分を見分けてみてください。
Excel・スプレッドシートでKPIツリーを作る方法
専用の作図ツールがなくても始められるのか、気になるところです。ExcelやGoogleスプレッドシートがあれば、図と数値の管理の両方を始めることが可能です。
図と数値管理表を分けて用意する
ExcelやGoogleスプレッドシートでKPIツリーを作るときは、図と数値の管理表を分けて用意すると進めやすくなります。
図を作る入口
- Excel(Microsoft 365など):[挿入]タブの[図形]から、四角形などの図形を追加します。箱どうしは、[図形]の線の中にあるコネクタでつなぐと、箱を動かしても線が離れにくくなります。(参照:図形を追加する|Microsoft サポート)(参照:線またはコネクタを描画または削除する|Microsoft サポート)
- Googleスプレッドシート(パソコンのブラウザ版):[挿入]メニューから図形描画を挿入します。英語表示では[Insert]→[Drawing]です。(参照:Custom Menus in Google Workspace|Google for Developers)
最初は、図1と同じ小さな図を再現するところから始めると、操作に迷いにくくなります。
- 「新規受注金額」「受注件数」「平均受注単価」の三つの箱を置く
- 新規受注金額の箱から、受注件数と平均受注単価の箱へ線を引く
- 二つの子を掛け合わせる関係だと分かるように「×」を書き、「6件×50万円/件=300万円」の式と、基準月実績の仮例であることを添える
図を広げるときは、式で成り立つ関係は実線、改善仮説は点線と、線を描き分けます。箱の指標名は、次に説明する設計シートと同じ名前にしてください。名前が少しでも違うと、どの箱とどの記入欄が対応しているのか分からなくなります。
数値を管理する設計シート
数値の管理には、1指標ずつ縦に記入していく「設計シート」を使います。本記事の設計シートは、次の8項目で構成しています。Microsoftなどの公式の様式ではなく、本記事で用意したものです。
- 指標と役割
- 定義・単位・対象期間
- 式または仮説
- 基準月実績
- 計画対象月の目標・必要水準・試算条件
- 取得先・記録担当・確認担当・頻度
- 次に確認すること
- 集計・運用上の注意
表計算で指標を行に並べて管理したい場合は、この8項目を同じ順序で列見出しにすれば、そのまま使えます。設計シートは指標の設計を書く場所なので、毎月の実績は、後掲の表1のように期間別の別表へ記録していきます。
割合の計算には、表計算ならではの注意点があります。割合は「分子÷分母」で算出し、セルには小数のまま保持して、表示形式を%にします。例えばセルに「=6/30」と入力すると0.2になり、表示形式を%にすれば20%と表示されます。親の式では、30件×0.2=6件と計算します。%表示にしたセルの計算式に、さらに「×100」を入れると、値が100倍になってしまうので気をつけましょう。
設計シートへの記入手順は、次のとおりです。
- 空欄の設計シートをコピーする
- 最初の指標欄に自社のKGI、目標欄に対象月と目標値を記入する
- 分解した指標ごとに、同じ8項目の記入欄を複製する(1指標ごとにワークシートを分ける必要はありません)
- 各記入欄に、式または仮説を記入する
- 「作成したKPIツリーを点検するチェックポイント」の点検表(表2)で確認する
各ステップの詳しい考え方は、作り方の5ステップに戻って確認してください。
記入例と空欄の設計シートを使って点検する
ここからは、営業の仮例の6指標を記入した設計シートの見本と、同じ項目の空欄版を掲載します。見本の値はすべて説明用の仮例です。
見本と空欄版は、同じ8項目・同じ順序で作っています。空欄版は1指標分なので、必要な指標の数だけ記入欄を複製して使ってください。項目を削らずに値だけを書き換えれば、見本がそのまま自社の設計シートになります。
見本1 新規受注金額
| 項目 | 記入内容 |
|---|---|
| 指標と役割 | 新規受注金額/KGI |
| 定義・単位・対象期間 | 集計月に受注した新規案件の契約金額合計。継続・更新は除く。単位は円、集計は月次 |
| 式または仮説 | 受注件数×平均受注単価(計算関係) |
| 基準月実績 | 300万円 |
| 計画対象月の目標・必要水準・試算条件 | 目標400万円 |
| 取得先・記録担当・確認担当・頻度 | 案件台帳/営業担当者が随時記録/営業責任者が月次確認 |
| 次に確認すること | 受注件数と平均受注単価のどちらに差があるか。契約金額・受注日の記録漏れや変更がないか |
| 集計・運用上の注意 | 売上計上額ではない。受注日を契約確定日、金額を税抜として、この仮例の各月で統一する |
見本2 受注件数
| 項目 | 記入内容 |
|---|---|
| 指標と役割 | 受注件数/KGIを構成する指標 |
| 定義・単位・対象期間 | 集計月に受注が確定した新規案件数。単位は件、集計は月次 |
| 式または仮説 | 結果確定商談件数×受注率(計算関係) |
| 基準月実績 | 6件 |
| 計画対象月の目標・必要水準・試算条件 | 平均受注単価50万円/件を仮定した必要水準8件 |
| 取得先・記録担当・確認担当・頻度 | 案件台帳/営業担当者が随時記録/営業責任者が月次確認 |
| 次に確認すること | 結果確定商談件数と受注率のどちらに試算との差があるか。未確定案件の進捗・営業期間も別に確認する |
| 集計・運用上の注意 | 案件IDで重複を除く。商談を行った回数ではなく、受注案件を数える |
見本3 結果確定商談件数
| 項目 | 記入内容 |
|---|---|
| 指標と役割 | 結果確定商談件数/実績の分解・試算用の指標 |
| 定義・単位・対象期間 | 集計月に受注・失注が確定した新規商談の件数。単位は件、集計は月次 |
| 式または仮説 | 受注件数+失注件数(同じ対象・期間の計算関係) |
| 基準月実績 | 30件 |
| 計画対象月の目標・必要水準・試算条件 | 受注率20%・平均受注単価50万円/件を仮定した必要水準40件 |
| 取得先・記録担当・確認担当・頻度 | 案件台帳/営業担当者が確定時に記録/営業責任者が月次確認 |
| 次に確認すること | 受注・失注の内訳、確定日の偏り、未確定案件の残り方に変化がないか |
| 集計・運用上の注意 | 未確定案件を含めない。失注の確定基準を事前にそろえる。40件を増やす行動目標にはしない |
見本4 受注率
| 項目 | 記入内容 |
|---|---|
| 指標と役割 | 受注率/この例で重点的に確認するKPI |
| 定義・単位・対象期間 | 集計月に結果が確定した新規商談のうち、受注した割合。単位は%、集計は月次 |
| 式または仮説 | 受注件数÷結果確定商談件数(計算関係)。計算値は小数で保持し、表示形式を%にする |
| 基準月実績 | 20%(受注6件÷結果確定商談件数30件) |
| 計画対象月の目標・必要水準・試算条件 | 試算条件20%。改善できるかを確認しないまま、確約された率としては扱わない |
| 取得先・記録担当・確認担当・頻度 | 案件台帳の受注件数と結果確定商談件数から集計/営業担当者が更新/営業責任者が月次確認 |
| 次に確認すること | 分子・分母の記録条件、案件構成、失注理由、提案内容。要件確認の共通化は、聞き漏れが疑われた場合の候補 |
| 集計・運用上の注意 | 分母が0件なら算出しない。分子・分母の件数も併記する。率の低下だけで原因を決めない |
見本5 平均受注単価
| 項目 | 記入内容 |
|---|---|
| 指標と役割 | 平均受注単価/KGIを構成する指標 |
| 定義・単位・対象期間 | 集計月に受注した新規案件の1件あたり契約金額。単位は円/件、集計は月次 |
| 式または仮説 | 新規受注金額÷受注件数(計算関係) |
| 基準月実績 | 50万円/件 |
| 計画対象月の目標・必要水準・試算条件 | 試算条件50万円/件 |
| 取得先・記録担当・確認担当・頻度 | 案件台帳の新規受注金額と受注件数から集計/営業担当者が更新/営業責任者が月次確認 |
| 次に確認すること | 商品・顧客の構成、値引き、契約範囲、金額の記録条件に変化がないか |
| 集計・運用上の注意 | 受注0件なら算出しない。大口案件の有無も確認し、単価を自由に上げられるとは仮定しない |
見本6 提案前の要件確認実施率
| 項目 | 記入内容 |
|---|---|
| 指標と役割 | 提案前の要件確認実施率/改善に使う候補指標 |
| 定義・単位・対象期間 | 集計月に初回提案した新規案件数を分母、そのうち初回提案前に必須確認項目をすべて記録できた案件数を分子とする。単位は%、集計は月次。必須項目の例は顧客の課題・提案条件で、記録開始前に決める |
| 式または仮説 | 該当案件数÷初回提案した新規案件数で算出。計算値は小数で保持し、表示形式を%にする。要件確認の共通化が受注率の改善に役立つかは、別に検証する仮説 |
| 基準月実績 | 未計測。推測で埋めない |
| 計画対象月の目標・必要水準・試算条件 | まず記録を開始する。初回の確認後に、目標値の設定・継続・保留を判断する。目標率は未設定 |
| 取得先・記録担当・確認担当・頻度 | 提案管理記録に案件ID・初回提案日・必須項目ごとの記録内容と完了日/営業担当者が案件ごとに記録/営業責任者が初回は週次で記録状況を確認し、率は月次で集計する案 |
| 次に確認すること | 初回は分子・分母の件数、記録漏れ、未実施の理由、記録の負担から、定義・継続の可否・目標値を判断する。続ける場合は、同じ案件IDを受注・失注まで追い、結果が出るまでの時間と案件の条件を確かめる |
| 集計・運用上の注意 | 案件IDで重複を除き、分母が0件なら算出しない。月次の受注率とは対象の案件群が異なることがあるため、二つの率の増減だけで施策の効果を判定しない |
空欄設計シート(コピー用)
最初の1枚には自社のKGIを記入し、2枚目からは分解した指標ごとに複製します。[ ]内は記入の案内です。
| 項目 | 記入内容 |
|---|---|
| 指標と役割 | [最初は自社のKGI。例の「新規受注金額」を置き換える] |
| 定義・単位・対象期間 | [何を、いつ、どの単位で数えるか] |
| 式または仮説 | [親子をつなぐ計算式、または検証したい関係] |
| 基準月実績 | [対象月と実績。未計測ならその旨] |
| 計画対象月の目標・必要水準・試算条件 | [対象月・数値と、目標/必要水準/試算条件の区分] |
| 取得先・記録担当・確認担当・頻度 | [記録元、記録する人、判断する人、確認する間隔] |
| 次に確認すること | [数値が変化した場合、または計測を始めた後に、何を確かめて判断するか] |
| 集計・運用上の注意 | [除外する対象、重複、分母が0件の場合、その他の条件] |
記入が終わったら、「式または仮説」と「次に確認すること」の欄を見直してみてください。図ができていても、この二つが空欄のままなら、まだ判断に使える設計にはなっていません。
まだ計測していない数値は、空欄を無理に埋める必要はありません。見本6のように、「未計測」と書いたうえで、計測を始めることと、最初の確認で何を判断するかを記入しておきましょう。
KPIツリーを改善につなげる使い方
実績が出た後、ツリーのどこから見ればよいのか迷うこともあるでしょう。ここでは、作り方で使った営業の仮例について、計画対象月が終わった時点の実績の読み方を解説します。
目標と実績の差を、上から順に確認する
作り方の章で、計画対象月のKGIを新規受注金額400万円と決めました。計画対象月が終わり、同じ定義で集計した実績は300万円でした。まずは、この100万円の差を確認します。
次に、基準月の実績、計画対象月の試算、計画対象月の実績を、同じ定義で並べます。
表1 営業例の時系列と数値の役割
| 指標 | 基準月実績 | 計画対象月の目標・試算 | 計画対象月実績 |
|---|---|---|---|
| 新規受注金額 | 300万円 | KGIの目標400万円 | 300万円 |
| 受注件数 | 6件 | 単価50万円/件を仮定した必要水準8件 | 6件 |
| 結果確定商談件数 | 30件 | 受注率20%・単価50万円/件を仮定した必要水準40件 | 40件 |
| 受注率 | 20%(6件/30件) | 試算条件20% | 15%(6件/40件) |
| 平均受注単価 | 50万円/件 | 試算条件50万円/件 | 50万円/件 |
すべて説明用の仮例です。基準月は計画の元にする1か月、計画対象月はその翌月を指します。
作成時の試算は、40件×20%×50万円/件=400万円でした。それに対して計画対象月の実績は、40件×15%×50万円/件=300万円です。結果確定商談件数と平均受注単価は試算どおりなので、試算と実績の計算上の差は、受注率の枝に現れていることになります。
表の40件や20%は、試算の条件と、その条件での必要水準です。目標と呼ぶのは、新規受注金額400万円だけです。
もう一つ見ておきたいのが、基準月と計画対象月の比較です。基準月は30件×20%、計画対象月は40件×15%で、どちらも受注は6件でした。結果が確定した商談は10件増えたのに、受注件数は増えていません。
ここで「商談の質が下がった」と結論を出したくなりますが、この数値だけでは原因までは決められません。案件の構成が変わっていないか、失注理由に変化はないか、提案内容に違いはないかを調べる必要があります。
調べ始める前に、データそのものも点検しておきましょう。記録の漏れはないか、失注を確定させる基準や記録のタイミングが変わっていないかを確認します。率を報告するときは、15%(6件/40件)のように分子・分母の件数を併記しておくと、件数の少なさによるぶれにも気づきやすくなります。未達の割合が大きい指標から、機械的に最優先の改善箇所にする必要はありません。
改善候補を選び、仮説を確かめる
ここで分けておきたいのは、「どうなれば目標に届くか」という試算と、「どの施策で改善できるか」という判断です。結果確定商談件数40件・平均受注単価50万円/件が同じなら、受注率が20%であれば400万円に届く、というのは試算です。どうすれば受注率が改善するかは、この試算からは分かりません。
失注理由や提案の記録から聞き漏れが疑われた場合には、ステップ3で挙げた「要件確認の共通化」を試す候補にします。
要件確認の記録をまだ取っていなければ、ステップ5の項目で記録を始めます。すでに記録している場合は、実施の状況や実施できなかった理由、記録の負担を確かめ、記録を続けるか、目標値を置くかを判断します。
そのうえで、初回提案を行った案件を、案件IDで受注・失注が決まるまで追いかけます。結果が出るまでにかかる時間や、案件の条件の違いも確かめておきましょう。月次の要件確認実施率と、別の案件も含む月次の受注率を並べただけで、効果があったと判定することはできません。
改善候補が複数ある場合は、次の観点で比べると選びやすくなります。
- 期待できる効果
- 必要な工数
- 実行できるかどうか
- 結果が出るまでの時間
- ほかの指標への影響
一度に多くの施策に着手すると、どの施策が効いたのかが分からなくなります。また、施策を実施した後に受注率が上がったとしても、それだけで施策の効果が証明されたことにはなりません。同じ時期に、案件の構成や市場の状況が変わっていた可能性もあるからです。
事業やデータが変わったらツリーを見直す
KPIツリーは、一度作ったら終わりではありません。次のようなときは、ツリーそのものを見直すタイミングです。
- 商品・価格・顧客層・担当範囲が変わったとき
- KPIは動いているのに、KGIの成果につながらないとき
- 計測方法や記録の条件が変わり、これまでの前提が崩れたとき
確認の頻度は、数値が更新される速さや、受注までの営業期間、判断に使えるだけのデータ量に合わせて決めます。本記事の仮例では月次や週次で確認していますが、これはあくまで一つの運用案です。案件の少ない業務で週次の受注率を見ても、件数が少なすぎて判断に使えないこともあります。
オウンドメディアの運用にKPIツリーを使う場合は、メディアの目的や運用状態に合わせて指標を選び、GA4やSearch Console、CRMでどう計測するかを決める必要があります。詳しくは、次の記事で解説しています。
ツリーを作った後も、実績と照らし合わせながら、少しずつ直していただけたらと思います。
まとめ|KPIツリーは、作った後の確認と判断まで設計する
KPIツリーは、KGIを頂点に、目標を構成する数値や達成に関わる指標を枝分かれさせて、そのつながりを整理した図です。本記事では、次の流れで解説しました。
- KGIの対象・期間・目標値を決め、構成する数値へ分ける
- 計算で成り立つ関係と、検証が必要な改善仮説を描き分ける
- 式・単位・分母・期間を点検し、計測方法と担当者を決める
- 実績が出たら、目標との差がどの枝に出ているかを確認する
- 原因を決めつけず、調べる箇所と試す候補を決める
図をきれいに完成させることより、作った後に実績を読み、次に何を調べて何を試すかを決められることのほうが、実務では役に立つと思います。
最初から大きなツリーを作る必要はありません。まずは担当業務の目標を一つ選び、本記事の設計シートの見本を、自社の条件に置き換えるところから始めていただけたらと思います。
参考資料・出典一覧
- (参照:スノーリゾート地域の経済波及効果分析手引書 Ver.1|観光庁)
- (参照:Driver Diagram|Institute for Healthcare Improvement)
- (参照:図形を追加する|Microsoft サポート)
- (参照:線またはコネクタを描画または削除する|Microsoft サポート)
- (参照:Custom Menus in Google Workspace|Google for Developers)
- (参照:KPIツリーはどう作る?作り方の手順とKGI・KPIとの違い、具体例・活用ポイントを解説|マネーフォワード クラウド)
上記資料のうち、本文で参照した箇所を2026年10月3日に確認しています。
