バリュープロポジションキャンバスとは?6つの要素と作り方を記入例で解説

バリュープロポジションキャンバスとは

「自社の商品やサービスの良さは説明できるけれど、顧客が求めていることと合っているのか自信がない」
「バリュープロポジションキャンバスを知ったものの、6つの欄に何を書けばよいのか分からない」
「一度作ってはみたけれど、そのあと何をすればよいのか迷う」

といった迷いのあるマーケティング・Web担当者の方も多いのではないでしょうか。

自社の機能や特長を並べれば、商品の説明はひととおりできます。ただ、それが顧客にとってどんな価値になるのかは、機能の一覧だけでは伝わりにくいものです。

バリュープロポジションキャンバスは、顧客が求めていることと、自社が提供する価値を分けて書き出し、両者がどう対応しているのか、まだ確かめていないことは何かを考えるための道具です。

とくに、問い合わせや申し込みの獲得を目的にWebサイトやオウンドメディアを立ち上げたり見直したりする場合は、記事やページを作り始める前に整理しておきたいことの一つといえます。

本記事では、バリュープロポジションキャンバスを構成する6つの要素と作り方を、架空の記入例を使って解説します。後半では、顧客に確かめた結果に応じてキャンバスを書き直す流れや、整理した価値をWebサイトや記事づくりに活かす方法もお伝えできたらと思います。

目次

バリュープロポジションキャンバスとは

名前は聞いたことがあっても、何を整理して、何に使うものなのかは分かりにくいと感じる方もいると思います。

バリュープロポジションキャンバス(Value Proposition Canvas、以下VPC)とは、顧客が求めていることと、製品・サービスが提供する価値を対応させて書き出し、その対応が本当に成り立つのかを考え、確かめるための道具です。ビジネスモデルキャンバスの考案者として知られるアレックス・オスターワルダー氏らが考案したもので、現在はStrategyzer(ストラテジャイザー)社が公式のテンプレートを公開しています。

VPCは、大きく2つのまとまりでできています。

  • 顧客プロフィール(Customer Profile):対象とする顧客が何をしようとしていて、何に困り、何を得たいのかを書く側
  • バリューマップ(Value Map):自社が何を提供し、それが顧客の困りごとや得たい成果にどう働きかけるのかを書く側
バリュープロポジションキャンバス 6要素の全体像
顧客側と提供側を分けて書き、対応を顧客に確かめながら見直します

それぞれのまとまりが3つの要素に分かれていて、合計で6つの要素になります。各要素の書き方に関しては、後述します。

VPCを使うと、顧客が気にしていることと、自社が伝えている価値とのずれに気づきやすくなります。例えば、自社では便利な機能だと考えていても、書き出してみると顧客の困りごとのどれにも対応していなかった、ということもあるでしょう。そうしたずれは、商品・サービスの改善を考えるときにも、顧客に伝える価値を選ぶときにも、手がかりになります。

似た言葉との違いも、ここで整理しておきます。

言葉何を表すか・何を整理するか
バリュープロポジション顧客に提供する価値の提案。顧客がなぜ他ではなく自社の製品・サービスを選ぶのか、に答えるもの
バリュープロポジションキャンバス(VPC)顧客が求めることと提供価値の対応を、整理・検討するための道具
ビジネスモデルキャンバス(BMC)9つの構成要素で、事業全体の仕組みを整理するための道具

(参照:Value proposition: the key to winning customers and driving business growth|Strategyzer)

VPCとBMCは、同じ道具ではありません。Strategyzerの説明によると、BMCは9つの構成要素で事業の全体像を描くもので、VPCはそのうち「価値提案」と「顧客セグメント」の2つを詳しく描き、両者の適合(フィット)を検討するためのものです。また、2つは組み合わせて使うもので、一方が他方の代わりになるわけではない、とも説明されています。(参照:Achieve product-market fit with our brand-new Value Proposition Canvas|Strategyzer)

そのため、VPCを作っても、収益の仕組みやコストまで含めた事業全体を確かめたことにはなりません。VPCで考えるのは、特定の顧客と、その顧客に提供する価値の対応です。

まずは、自社のどの商品・サービスを、どの顧客に向けて考えたいのかを思い浮かべてみてください。

バリュープロポジションキャンバスを構成する6つの要素

6つの欄があると聞くと、どこに何を書けばよいのか混乱しそうだと感じるかもしれません。

VPCでは、顧客について書く側と、自社について書く側をはっきり分けます。Strategyzerは、顧客プロフィールには顧客について観察できることを書き、これらは自社が直接コントロールできないもの、バリューマップには自社が設計して提供するものを書く、と説明しています。(参照:5 common mistakes to avoid when using the Value Proposition Canvas|Strategyzer)

両者が混ざると、自社が伝えたいことを顧客の悩みとして書いてしまい、顧客が実際に困っていることが見えにくくなります。ここでは、顧客側の3つと、提供側の3つに分けて解説します。

顧客プロフィール:達成したいこと・困りごと・得たい成果

顧客プロフィールには、自社の解決策を先に置かず、顧客がしたいこと、それを妨げること、望む結果を書き分けます。

要素意味記入するときの問い例(総務担当者の場合)
①達成したいこと(Customer Jobs)顧客が仕事などの中で成し遂げようとしていること顧客は何をやり遂げようとしているか申請・承認業務を滞りなく運用し、進捗を把握したい
②困りごと(Pains)達成を妨げる困難・負担・リスク何が負担や不安になっているかどこで承認が止まっているか分からず、個別に確認・催促している
③得たい成果(Gains)顧客が期待・希望する成果や、望ましい状態どうなっていれば嬉しいか申請の状況を把握し、関係者に見通しを説明できる

※例は、後の記入例でも使う説明用の架空例です。

①達成したいことには、「総務担当者」のような職種名や、「ワークフローサービスを導入する」のような自社商品の購入を書くわけではありません。顧客が業務の中でやり遂げたいことを書きます。

Strategyzerは、作業上の目的(機能的なジョブ)だけでなく、周りからどう見られたいか(社会的なジョブ)、どう感じたいか(感情的なジョブ)にも目を向けるよう説明しています。(参照:Value proposition: the key to winning customers and driving business growth|Strategyzer)

例えば総務担当者なら、「社内から頼られる担当者でありたい」「重要な申請の見落としを心配せずに業務を進めたい」といったことも、達成したいことの候補になるでしょう。

②困りごとには、達成したいことの前後や途中で起きる、負担や嫌な気持ち、避けたい状況やリスクを書きます。このとき、「通知機能がない」のように、自社の商品にある機能がないことを、そのまま顧客の困りごととして書かないようにしておきましょう。顧客が困っているのは、通知機能がないことなのか、承認の遅れそのものなのかは、確かめてみないと分かりません。

③得たい成果には、顧客が期待していることや、あると嬉しいことを書きます。「承認の遅れがなくなる」のように困りごとを裏返しただけで終えず、「関係者に見通しを説明できる」「滞留の傾向をつかみ、業務の見直しに活かせる」のように、顧客が望む状態を具体的に書くと、提供側を考えるときの手がかりが増えます。

バリューマップ:製品・サービスと、それが生み出す価値

バリューマップには、提供するものそのものと、それが顧客の困りごとや得たい成果にどう働きかけるのかを、分けて書きます。

要素意味記入するときの問い例(ワークフローサービスの場合)
④製品・サービス(Products & Services)価値の提案のもとになる製品・サービス何を提供しているか申請・承認の状況を管理するワークフローサービス(進捗一覧、承認者に未処理の申請を知らせる通知)
⑤困りごとへの働きかけ(Pain Relievers)顧客のどの困りごとを、どのように軽くする想定かどの困りごとを、どうやって減らすか進捗一覧で滞留先を把握しやすくし、個別の確認・催促の負担を減らす(仮説)
⑥得たい成果への働きかけ(Gain Creators)顧客のどの得たい成果に、どのようにつながる想定かどの成果に、どうつながるか進捗の情報を共有しやすくし、関係者への状況説明を支える(仮説)

※例は説明用の架空例で、実在する製品の仕様ではありません。

④製品・サービスには、形のある製品だけでなく、デジタルのサービスや、品質保証のような形のないものなども含まれます。ここには「時間が短縮される」のような効果を並べるのではなく、提供するもの自体を書きます。(参照:Value proposition: the key to winning customers and driving business growth|Strategyzer)

とくに混同しやすいのが、④と、⑤・⑥の違いです。例えば「承認者に未処理の申請を知らせる通知機能」と「確認・催促の負担が減る」は、同じことを書いているように見えます。ただ、前者は機能で、後者は顧客側に起きると期待している変化です。通知機能があるからといって、負担が減ることまで確かめたことにはなりません。

⑤には製品・サービスが困りごとをどう軽くするか、⑥には得たい成果にどうつながるかを書きます。まだ確かめていない働きかけや効果は、仮説として区別しておきましょう。どの困りごと・得たい成果に働きかけるのかが分かるように書いておくと、後で確かめる対象がはっきりします。

自社の製品・サービスについて、何を提供していて、顧客の何に働きかけるのかを、一度書き分けてみてください。

バリュープロポジションキャンバスの作り方

6つの要素が分かっても、実際にどこから書き始めればよいのかは迷うところです。

VPCの公式テンプレートは、Strategyzerの公式ページで公開されています。入手の方法や条件は変わることもあるため、利用する際は公式ページで確かめてください。(参照:The Value Proposition Canvas|Strategyzer)

本記事では、顧客側から考え始める順序で、作り方を5つの段階に分けて紹介します。これは、初めての方が進めやすいように本記事で整理した進め方で、決まった公式の手順ではありません。

Strategyzerも、必ずしも顧客から始める必要はなく、自社の技術や資源をもとに、バリューマップから考え始める場合もあると説明しています。ただ、どちらから始めても、最後は顧客との適合を確かめる必要がある、とも述べています。(参照:Starting with the customer|Strategyzer)

1. 対象顧客と利用場面を絞る

まず、誰についてのキャンバスを作るのかを決めます。「企業向け」「中小企業の担当者」のままでは範囲が広く、欄に書く内容がぼやけてしまいます。

例えば、「申請・承認業務を運用・改善する総務担当者が、滞留した申請を確認・催促する場面」のように、顧客の役割と、価値が必要になる場面を一文にしておくとよいでしょう。会社の規模や業種などの条件は、内容に関わる範囲で加えれば十分です。年齢や趣味のように、価値を考えることに関わらない人物設定まで、細かく作る必要はありません。

なお、実際に使う人と導入を決める人の悩みを、一枚に混ぜてしまう誤りに関しては、後述します。

この段階では、対象顧客と利用場面を表す短い一文ができれば十分です。

2. 顧客情報を集め、顧客側の3項目を整理する

次に、顧客側の3つの欄を埋めるための材料を集めます。材料としては、例えば次のようなものがあります。

  • 問い合わせの内容
  • 商談の記録
  • 顧客への聞き取り
  • 顧客の業務の様子の観察

書き出すときは、事実と、そこから考えた解釈・仮説を分けておくことが大切です。情報源、確認した内容、そこから考えた仮説、まだ確かめていないことを並べておくと、後で見直しやすくなります。

情報源確認した内容(事実)考えた仮説未確認のこと
問い合わせの記録承認状況が分からないという相談があった承認状況の確認・催促に負担を感じているのではないか負担の大きさ、どのくらいの頻度で起きるか
商談の記録一覧表で申請を管理していると話していた一覧表の更新や確認に手間がかかっているのではないか一覧表の運用で足りている部分はあるか

※説明用の架空例です。

とくに見落としやすいのが、「顧客がそう言った」ことと、「それが本当の原因である」ことの違いです。例えば「承認が遅い」という声があっても、遅れの理由が見落としなのか、判断材料の不足なのかは、聞き取りや業務の確認をしてみないと分かりません。

情報がない欄は、想像で言い切って埋めず、「仮説」「未確認」と書いて残しておきましょう。空欄を理想の顧客像で埋めてしまうと、実際の顧客から離れてしまいます。

また、問い合わせや商談の記録には、顧客の個人情報や社外秘の情報が含まれることがあります。社内で共有する範囲や、外部に出す資料に使ってよいかどうかにも、配慮が必要です。

3. 顧客にとって重要な項目を選ぶ

顧客側の欄を書き出すと、項目が多くなることがあります。すべてに対応しようとすると、どれも中途半端になりかねません。Strategyzerも、すべての困りごとや得たい成果に対応しようとすることを、よくある失敗の一つに挙げています。

対応する項目を絞るときは、例えば次の3点を判断のヒントにするとよいでしょう。

  • 顧客への影響:起きたときに、業務や気持ちにどのくらい響くか
  • 発生頻度:どのくらいの頻度で起きるか
  • 今の方法で解決できている程度:今の運用やほかの手段で、すでに解消できていないか

Strategyzerの説明でも、困りごとの強さや発生頻度を書き添えることが勧められています。(参照:Value proposition: the key to winning customers and driving business growth|Strategyzer)

3つ目の観点は本記事で加えたもので、この3点は決まった採点方法ではありません。頻度は低くても影響が大きい問題もあるため、点数で機械的に決める必要はないでしょう。

困りごとだけでなく、①達成したいことの重要さや、③得たい成果をどの程度求めているかも確認します。このあとの記入例では、②困りごとの軽減を優先して考えます。

また、顧客にとっての重要さと、自社が対応しやすいかどうかは、分けて考えておきましょう。自社の機能で解決できそうな項目ほど重要に見えてしまうものですが、それは顧客にとっての重要さとは別の話です。

例えば総務担当者の例では、「承認状況の確認・催促の負担」を優先する候補にできます。期限に影響が出ることがあり、繰り返し起きていて、メールや一覧表での管理では負担を減らしきれていない、と考えられるためです。ただし、これは顧客に確かめる前の判断です。根拠が足りないうちは、優先順位も仮置きにしておき、次の段階で確かめていきます。

4. 製品・サービスと提供価値を整理する

顧客側の整理ができたら、自社側の3つの欄を書いていきます。製品・サービス、困りごとへの働きかけ、得たい成果への働きかけを区別し、顧客側のどの項目に対応するのかを確かめます。

このとき、自社が今提供できることと、今後検討する案は分けておきましょう。まだ実装していない機能を、提供できることとして書いてしまうと、対応しているように見えても実態とずれてしまいます。

また、顧客側のすべての項目に対応させる必要はありません。対応は一対一とは限らず、一つの機能が複数の困りごとに関わることもあります。書き出したキャンバスを見比べると、例えば次のようなことに気づけるでしょう。

  • 顧客側の重要な困りごとに、どの働きかけも対応していない
  • 働きかけを書いたものの、顧客側に当てはまる項目がない
  • 「業務がスムーズになる」のように、どの困りごとに働きかけるのかが曖昧な記述がある

こうした点が、次に顧客に確かめることや、見直すことの候補になります。

5. 対応関係を確認し、顧客に確かめる

キャンバスを書き終えただけでは、顧客と提供価値の対応が確かめられたことにはなりません。先ほどの公式テンプレートのページでも、適合は顧客が認めるまでは主張にすぎず、描いた対応を証拠と照らし合わせて調整するよう説明されています。

そこで、重要で、まだ確かめていない点を選び、聞き取りや業務の観察、試用などで確かめます。Strategyzerは、確かめる対象を、顧客側の仮説、提供する製品・サービス、支払う意向の3つに分けて説明しています。本記事では、このうち前の2つを取り上げます。(参照:Roadmap to test your value proposition|Strategyzer)

  • 顧客側の仮説を確かめる:達成したいこと、困りごと、得たい成果が実際にあり、顧客にとって重要かを、聞き取りや業務の観察で確かめる
  • 提供価値を確かめる:提供するものが、重要な困りごとを軽くしたり、望む成果につながったりするかを、試用などで確かめる

聞き取りでは、「このサービスを使いたいと思いますか」と意見を聞くより、「最近、承認の催促をしたのはいつで、どのように対応しましたか」のように、実際の経験を聞くほうが事実に近づきやすくなります。Strategyzerも、顧客の発言だけでは根拠として十分ではなく、とくに重要な仮説は、顧客に実際に行動してもらって確かめるよう勧めています。(参照:Ways to test your value proposition and business model|Strategyzer)

確かめる前に、次の点を書き出しておくと、結果を見たあとに何を直せばよいかが分かりやすくなります。

  • 対象:誰に確かめるか
  • 確かめる問い:何が分かればよいか
  • 方法:聞き取り、観察、試用など
  • 見る変化:どんな発言や行動、業務の変化を見るか
  • 判断基準:どのような結果なら仮説を支持し、どのような結果なら見直すか
  • 見直す項目:結果によって、どの欄を直すか

何人に聞けば十分か、どの結果なら成功か、といった基準は、商材や状況によって変わります。一律の数値を当てはめるのではなく、今回の検証で何を判断するかに合わせて、基準をあらかじめ決めておきましょう。Strategyzerも、検証の前に、仮説、確かめ方、測る項目、成功とみなす基準をはっきりさせる考え方を紹介しています。(参照:Validate your ideas with the Test Card|Strategyzer)

確かめた結果をもとにキャンバスを直す流れに関しては、次の記入例で具体的に紹介します。

まずは、自社のキャンバスで一番確かめたい点を、一つ選んでみてください。

バリュープロポジションキャンバスの記入例

ここまでの内容を実際のキャンバスに当てはめるとどうなるのか、イメージしにくい方もいると思います。

以下は考え方を説明するための架空例です。企業・顧客の状況、機能、発言、検証結果は実在の事例や実績ではありません。

ワークフローサービス提供企業が総務担当者向けに作る例

キャンバスを作るのは、企業向けのワークフローサービス(社内の申請や承認をオンラインで行うためのサービス)を提供する架空の企業です。顧客は、中小企業で申請・承認業務を運用・改善している総務担当者で、承認状況を把握し、滞留した申請を確認・催促する場面を想定しています。総務担当者は今、メールや一覧表で申請の状況を追っていて、関係者への確認が必要になっている、という仮定です。

バリュープロポジションキャンバス 記入例の顧客側
総務担当者について整理した顧客プロフィールの架空例です。内容は検証前の仮説です
バリュープロポジションキャンバス 提供側の「バリューマップ」
ワークフローサービス提供企業のバリューマップの架空例です。⑤⑥は期待する働きかけで、確認済みの効果ではありません
まとまり要素記入例
顧客プロフィール①達成したいこと申請・承認業務を滞りなく運用し、進捗を把握する/社内から頼られる担当者でありたい(社会的)/重要な申請の見落としを心配せずに業務を進めたい(感情的)
顧客プロフィール②困りごとどこで承認が止まっているか分からず、個別の確認・催促が必要になる/期限に間に合わないリスクがある
顧客プロフィール③得たい成果申請の状況を把握し、関係者へ見通しを説明できる/滞留の傾向をつかみ、業務の改善に活かせる
バリューマップ④製品・サービス申請・承認の状況を管理するワークフローサービス(進捗一覧と、承認者に未処理の申請を知らせる通知を備えると仮定)
バリューマップ⑤困りごとへの働きかけ進捗一覧で滞留先を把握しやすくする/承認者への通知で依頼の見落としを減らし、総務担当者による個別の確認・催促の負担を減らせるのではないか
バリューマップ⑥得たい成果への働きかけ進捗の情報を共有しやすくし、関係者への状況説明や、滞留している案件を把握したうえでの改善の検討を支えられるのではないか

※説明用の架空例です。顧客プロフィールの内容はすべて仮説で、⑤・⑥の効果も確かめた結果ではありません。

この記入例で注目したいのは、次の対応です。

  • ②の「どこで承認が止まっているか分からない」に、⑤の「進捗一覧で滞留先を把握しやすくする」が対応している
  • ②の「個別の確認・催促が必要になる」に、⑤の「承認者への通知で依頼の見落としを減らし、確認・催促の負担を減らす」という仮説が対応している
  • ③の「関係者へ見通しを説明できる」という成果に対し、⑥の「進捗の情報を共有しやすくする」は、現在の状況を説明するための材料をそろえる形で、その一部を支える

進捗一覧は、⑤と⑥の両方に関わっています。同じ機能が、困りごとを軽くすることにも、得たい成果につながることにも関わる場合はあります。無理に別の機能に分ける必要はなく、顧客の何に働きかける説明なのかが分かるように書き分けておけば十分です。

また、②の困りごとには「通知機能がない」とは書いていません。顧客が困っているのは承認状況が分からないことや催促の手間です。通知機能そのものは④に、その機能で承認者による見落としや、総務担当者の確認・催促の負担を減らすという働きかけは⑤に書いています。

優先する価値を選び、検証結果に応じて見直す

この例では、②の困りごとのうち「承認状況の確認・催促の負担」を優先して考えます。理由は、次のように仮置きしています。

  • 顧客への影響:期限に間に合わないことがあり、業務に影響が出る
  • 発生頻度:申請のたびに繰り返し起きている
  • 今の解決状況:メールや一覧表での管理では、負担を減らしきれていない

ただ、いずれも顧客に確かめる前の仮定です。総務担当者が本当にこの負担を大きいと感じているのか、という認識そのものも、確かめる対象になります。

最初の仮説は、「承認者が依頼を見落としていることが、遅れの主な原因ではないか」「そうであれば、承認者への通知があれば、総務担当者の確認・催促の負担を減らせるのではないか」というものです。

これを確かめるために、遅れた案件の状況や理由、催促が必要になった経緯を、聞き取りや記録で確かめます。試用をする場合は、通知が届いたかどうかだけでなく、確認・催促の負担や、申請の滞留の状況がどう変わったかを見ます。なお、試用の前後で申請の件数や期間などの条件が違うと、単純には比べられない点も考慮する必要があるでしょう。

ここで仮に、聞き取りと遅れた案件の記録を照合したところ、確認した案件では、見落としよりも「申請に必要な判断材料が足りず、差し戻しが起きていること」が遅れの主な原因だと分かった場合を考えてみます。

項目最初の仮説仮に別の原因が分かった場合の見直し
遅れの原因承認依頼の見落とし申請の判断材料が足りず、差し戻しが起きている
確かめること遅れた案件の状況や理由、催促が必要になった経緯どの情報が不足しているか、申請内容を整えると追加確認が減るか
顧客側の修正(②困りごと)どこで承認が止まっているか分からず、確認・催促が必要になる判断材料の不足で差し戻しが起こり、総務担当者の追加確認・調整が増える
提供側の修正(⑤困りごとへの働きかけ)承認者への通知で依頼の見落としを減らす必要な情報がそろうよう申請内容を整え、追加確認を減らす方向で検討する

※説明用の架空例です。検証の結果も仮の想定で、実際に調査した結果ではありません。

見直すときは、提供側の機能を差し替えるより先に、顧客側の②困りごとを書き直します。あわせて、①達成したいことや③得たい成果にも見直しが必要ないか確かめておきましょう。顧客の理解が変われば、それに合わせて提供側の働きかけも変わるためです。元の困りごとが残っている場合は削除せず、新たに分かった困りごとを追加して、優先順位を見直します。

提供側の「申請内容を整える」働きかけとしては、例えば必要な項目の案内や入力内容のチェックなどが考えられます。ただし、この例ではまだ実装されていない新しい改善案で、すでにある機能ではありません。この改善案を検討する場合は、④製品・サービスにも「必要項目の案内・入力チェック(未実装の案)」と追記し、⑤には、それによって追加確認や調整をどう減らすかを書きます。

また、遅れの原因が一つとは限りません。見落としが一部の遅れに関わっている可能性もあるため、通知が不要になったと決めつけず、申請内容を整える改善と組み合わせる余地も残しておきます。次は、どの情報が不足しているのか、申請内容を整えることで追加確認が本当に減るのかを確かめることになります。

自社のキャンバスでも、最初の仮説が外れた場合にどの欄を直すことになるのか、考えておいていただけたらと思います。

作成・活用でつまずきやすいポイント

一通り書けても、この整理でよいのか不安に感じる方もいると思います。Strategyzerがよくある失敗として挙げている内容も参考にしながら、とくにつまずきやすい3つを紹介します。

自社の商品に都合のよい顧客像にしない

例えば、顧客に聞き取りをしないまま、「顧客は自動通知機能が欲しい」と顧客側の欄に書いてしまうケースです。

これは、自社の商品から逆算して顧客像を作ってしまっている状態です。顧客が本当にしたいことや困っていることではなく、自社の商品が解決できることだけが並び、ほかの困りごとが見えなくなってしまいます。

直すときは、まず顧客がしたいこと、困っていることを確かめ、通知は解決策の候補として提供側に書きます。Strategyzerは、自社の商品のことをいったん忘れ、なぜその行動をとるのかを繰り返し問うことで、顧客の根本の動機を探る方法を紹介しています。また、自社にない解決策で解消できる可能性や、今の運用で十分に足りている可能性も、除外せずに残しておくとよいでしょう。

異なる立場の顧客の悩みを一枚に混ぜない

例えば、総務担当者の催促の負担と、決裁者が気にする投資の判断を、誰の課題なのかを区別せずに同じ欄に書いてしまうケースです。

一枚に混ぜると、誰の悩みなのかが分からなくなり、優先すべき項目も選びにくくなります。Strategyzerも、お金を払う人と使う人のように、異なる顧客の悩みを一つの顧客プロフィールに混ぜることを、よくある失敗として挙げています。

役割や利用場面が違う場合は、顧客プロフィールを分けて作り、それぞれの関係を整理しましょう。一方で、担当者が決裁まで兼ねている会社であれば、機械的に別の人として分ける必要はありません。本記事の記入例も、総務担当者という一つの立場に絞っています。

顧客の好意的な発言だけで結論を出さない

例えば、試用した顧客から「便利そう」と言われたので、継続して使ってもらえる、売れる、効果がある、と結論づけてしまうケースです。

顧客の発言と、実際の行動は一致しないこともあります。前述のとおり、Strategyzerも発言だけでは根拠として十分ではないとしています。

直すときは、「便利そう」と感じた理由や、実際の業務の状況、試用中に何をして、業務がどう変わったのかを確かめます。好意的な発言は手がかりにはなりますが、効果や購入を裏付けるものではありません。だからといって、肯定的な反応に意味がないわけでもないので、次に何を確かめるかを考える材料にしていただけたらと思います。

整理した価値をWebサイトやオウンドメディアに活かす

VPCで整理した内容を、Webサイトや記事にどうつなげればよいのか気になる方もいると思います。

ここで紹介するのは、VPCを編集の実務に応用するための本記事からの提案で、公式に決まった手順ではありません。引き続き、総務担当者の例を使って解説します。

顧客の悩み・疑問を記事テーマにつなげる

顧客プロフィールに書いた困りごとや疑問は、記事で答えるテーマの候補になります。

例えば、②困りごとに「どこで承認が止まっているか分からない」「判断材料の不足で差し戻しが起こる」と書いたとします。この総務担当者は、「なぜ承認が遅れるのか」「どう見直せばよいのか」を知りたいと考えるでしょう。そこから、「承認が遅れる原因と、業務の見直し方」という記事テーマの候補が考えられます。

ただし、テーマの候補が見つかっただけでは、そのテーマを検索する人がどのくらいいるのか(検索需要)、どんな答えを求めているのか(検索意図)までは分かりません。実際の検索結果や、自社の既存記事と内容が重なっていないかは、別に確かめておきましょう。

提供価値とその根拠をサービスページ・事例に反映する

バリューマップに書いた提供価値は、サービスページで伝える内容の候補になります。この例であれば、「承認状況の確認・催促の負担を減らす」が訴求の候補です。

ただ、この言い方はまだ検討中の候補で、確かめないまま成果として載せてよいわけではありません。掲載するには、伝えたい価値と、それを裏付ける情報を組にしておくことが大切です。裏付けとしては、例えば次のようなものがあります。

  • 機能の仕様:進捗一覧や通知で、何ができるのか
  • 試用で確かめた変化:誰の、どの作業が、どう変わったのか
  • 導入事例の対象・条件:どんな規模や運用の会社で、どんな条件のもとでの結果なのか

あわせて、今の運用やほかの解決手段と比べて、誰の何が変わるのかも確かめておきましょう。「機能がある」ことと「負担が減った」ことは、別の事実です。裏付けがないうちは、確認できている機能の説明にとどめ、期待している効果を実績のように書かないようにすることが大切です。

また、整理した価値は、いつ、どの接点で伝えるかによって受け取られ方が変わります。VPCは顧客と提供価値の対応を考えるための道具で、顧客がどんな過程で検討し、どこで情報に触れるのかは、カスタマージャーニーで整理するほうが向いています。伝えるタイミングや接点を考える際は、BtoBカスタマージャーニーの作り方も参考になります。同じ総務担当者の例で、検討の過程と接点を整理しています。

まずは、自社のサービスページで伝えている価値に、裏付けとなる情報がそろっているかを確かめてみてください。

まとめ|顧客が求めることと提供価値を整理しよう

初めて取り組むときは、6つの欄をうまく埋められるか不安に感じるかもしれません。

VPCは、顧客プロフィールとバリューマップの6つの要素で、顧客が求めていることと、自社が提供する価値の対応を整理するための道具です。大切なのは、6つの欄をきれいに埋めることよりも、顧客にとって重要な課題と、まだ確かめていないことを明らかにすることにあります。

書き出した対応は、顧客に確かめるまでは仮説です。確認結果に応じて、根拠に合うよう該当する項目を見直します。顧客についての理解が変わった場合は、顧客プロフィールを書き直し、それに合わせて提供側も見直していきます。

まずは、対象とする顧客を一つ選び、事実と仮説を分けて6つの欄を仮置きしてみてください。そのうえで、最初に顧客に確かめる問いを一つ決めます。

仮説が外れることも含めて、顧客に確かめながら、少しずつキャンバスを書き直していただけたらと思います。

参考資料・出典

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この記事を書いた人

企業のオウンドメディアで、企画・構成・執筆・編集から、SEO改善、アクセス分析まで担当しています。HR・キャリア・介護領域を中心に、外部ライターの進行・品質管理にも携わっています。

「編集実務室」では、日々の運用で試したことや考えたことをもとに、記事制作、SEO・AI検索への対応、生成AIの活用について発信しています。ひとりでメディアを運営する方にも役立つよう、実務で使える考え方や進め方をまとめています。

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